第三次世界大戦後のネオ東京を舞台に、世界の存亡を左右する力を秘めた少年アキラを巡ってさまざまな勢力の思惑が交錯する。数々の事件が巻き起こり、怒涛(どとう)のラストに突き進む。大友克洋氏の傑作マンガAKIRA』だ。1988年には大友氏自身が監督を務め劇場アニメ化された。マンガ史、アニメ史の中で欠かすことのできない、日本が世界に誇るSFの金字塔だ。

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 この『AKIRA』が、2021年に新たなかたちで人々の前に姿を見せることになった。19年春、ハリウッド実写映画版『AKIRA』がいよいよ本格的に製作に向かうことが決まった。

●「企画はあるが実現しない」ハリウッド実写化の代表

 実写映画化決定の最初の情報は、4月のカリフォルニア州政府機関のカリフォルニアフィルムコミッションによるものであり、少し変わっている。映画製作助成をする同組織が、映画『AKIRA』に対して税制優遇をすると発表した。税額控除の対象となる映画製作の支出だけで9200万ドル(約100億円)もの巨額と、かなりの大作だ。フィルムコミッションがわざわざ発表する理由でもある。

 5月になると今度は製作を担当するワーナー・ブラザースが、『AKIRA』の公開日を2021年5月21日にスケジューリングした。

 米国のメディアでは毎日のようにハリウッドの新作映画企画が報じられるが、中には実現しないものも多い。しかし配給会社が決まり、公開日が定まれば、映画の実現はほとんど決まったも同然。製作は人気俳優でもあるレオナルド・ディカプリオプロデューサーを務める制作会社アッピアン・ウェイ、監督は『マイティ・ソー バトルロイヤル』などで活躍するタイカ・ワイティティ。それにハリウッドメジャーワーナー・ブラザースの製作・配給となれば盤石の体制である。

 しかし映画事情に詳しければ、それでも映画の実現性を信じ切れない人も多いかもしれない。それもそのはずで、『AKIRA』のハリウッド実写映画化はこれまで何度もうわさになり消えていった、いわくつきなのである。企画はあるが結局実現しない、日本コンテンツハリウッド実写化企画の代表と見られてきた。

 ハリウッドにおいて『AKIRA』がたどってきた道を、振り返ってみよう。実写映画化決定が初めて世に伝えられたのは2002年、いまから17年も前である。当時はワーナー・ブラザースが権利を獲得し、ジョン・ピーターズがプロデュースするとメディアが報じ、脚本家の名前も挙がっていた。アメリカでは1989年アニメ映画AKIRA』が小規模公開された際に高く評価され、クリエイティブ層に熱烈なファンを多く生んでいた。当時のそうした状況が反映されていたのだ。

 ニュースを受け取った日本側は大きく沸き立った。同時に半信半疑でもあった。日本コンテンツハリウッド映画がほとんどない時代である。しかし、やがて日本でも「実写化決定」は映画化権利の獲得であり、実際の製作に行き着くにはさまざまな障害があることが知られるようになる。その後、『AKIRA』は数え切れないほどの監督や脚本家の候補がうわさされるも、実現しないまま十数年間も企画が漂う。

●まだまだニッチだった日本アニメ

 『AKIRA』の映画化は可能性が低かったわけではない。むしろ日本コンテンツのなかでは実現性の高いものの1つであった。特にジャウム・コレット=セラ監督、ギャレットヘドランド主演とするバージョンは、撮影直前までいったとされる。これまでにネット上に流出した数々の設定や関係者の発言からもこの企画がかなり進んでいたことがうかがえる。

 しかしこプロジェクト2012年に最終的に中止になった。出資するワーナー・ブラザースが、増大する製作予算の回収の見込みが薄いと判断したためだ。この決定は、長年映画を待ち続けてきたファンには、夢が最終的についえたものに思われた。そこまでプロジェクトが進みながら中止されてしまい、その原因が製作資金回収の見通しという致命的な点だったとしたら、この状況をさらに打ち破れるものはあるだろうか?

 製作資金に対する回収の見込みという問題は、日本コンテンツハリウッド映画化にあたってたびたび障害になってきたものだ。大きな予算をかけて製作した時に、それを取り戻せる大衆性が日本コンテンツにあるのか、投資家は疑念を抱いていた。

 それには明確な理由もあった。有名監督が関わりながら、思ったような成績を残せなかった日本コンテンツ実写化作品の例もあるのだ。08年公開の『スピードレーサー』は、1960年代の日本アニメマッハGoGoGo』を原作にしている。タツノコプロアニメらしい無国籍風の設定に、鮮やかな色彩設定、作品は至るところにラナ&リリー・ウォシャウスキー両監督による原作へのリスペクトに満ちていた。しかし1億2000万ドルとされる製作予算に対して、北米興行は4300万ドル、世界興行でも9300万ドルと期待外れだった。

●あのドラゴンボールも、実写版は振るわず……

 アニメマンガであれば米国でも大人気の『ドラゴンボール』を実写映画化した、2009年公開の『DRAGONBALL EVOLUTION』もある。こちらの北米興収は1000万ドルに届かず、興行はかなり厳しかった。

 00年代以降も長い間、欧米では 日本アニメマンガは巨大ではあるが、ニッチ(隙間)なジャンルと見られてきた。00年代に浮上したものの、実写化にたどりつかなかった作品は数多い。そのなかには浦沢直樹氏のマンガモンスター』、久保帯人氏の『Bleach』、岩明均氏の『寄生獣』、アニメでは『超時空要塞マクロス』『獣兵衛忍風帖』『新世紀エヴァンゲリオン』などがある。『AKIRA』の企画も、こうした作品の1つとして歴史の中に埋もれていくかと思われた。

●銃夢、攻殻機動隊も……実写映画化の「時」が来た

 ところが実際の状況は、逆方向に動き始める。『AKIRA』の実写映画プロジェクトは引き続き練られ、そして今回の撮影開始と公開日スケジュールの決定となった。ではなぜ『AKIRA』の企画は再びよみがえったのか、さらに実現にたどりつくまでこんなにも時間を要したのだろうか。それは「2019年」というタイミングに原因がある。

 『AKIRA』ほどでないが、長年動きが止まっていた日本マンガアニメ実写化プロジェクトが急に動き出す例がここ数年、続いている。

 木城ゆきと氏の『銃夢』を原作とした『アリータ: バトルエンジェル』は、『タイタニック』で空前の世界的ブームを巻き起こしたジェームスキャメロンが監督となることを目指していた。映画化が最初に浮上したのは03年。一時は、キャメロンが監督として『アバター』と本作のどちらを優先するか検討されていたほどだ。

 結局キャメロンは『アバター』を取り、これが大ヒット。その後は続編も監督することになる。それでも『アリータ: バトルエンジェル』は捨てがたく、自身がプロデューサーになることで2019年公開となった。

 『攻殻機動隊』は、プロダクションI.Gが実写映画化交渉を発表したのが07年である。ドリームワークスが製作する『ゴースト・イン・ザ・シェル』の公開は17年だから、企画実現までに10年を要した。

●日本アニメ、ついに「メジャー」に

 これらの動きは、日本の作品に対するビジネスの期待値が近年急速に高まったことに原因がある。ニッチであった日本アニメマンガメジャーへ飛び出したのだ。90年代から2000年代にかけての人気は若者の物で、映画化の企画を若いプロデューサーや監督が進めても、年配のエグゼクティブは日本作品の内容も人気であることも知らない。知らない物にGOサインは出ず、企画は実現しなかった。

 10年、20年の時が流れ、映画会社のエグゼクティブにも、日本アニメを見た世代が増えている。自身が昔に知っていたものであれば、作品への理解は早い。

 さらに『ポケモン』や『ドラゴンボール』『攻殻機動隊』といった作品は何度もテレビ放送され、世代を超えた認知を獲得していった。そして起きたのが、2010年代に急激に進んだインターネットでの動画配信の革命だ。アニメは手頃な価格で、簡単にアクセスできるようになったことで視聴者リーチを一挙に広げた。作品を支持するファンのボリュームも拡大し、それが映画化に説得力を与える。

 「時は来た」というわけである。これまで埋もれてきた大型プロジェクトが、次々に動き出した理由だ。

  もう1つ見逃されている要因に、中国市場の役割があるはずだ。「また中国マネーか?」と思う人もいそうだが、ここでは製作への投資でなく、消費者マーケットの話である。

●中国、日本コンテンツの「最大市場」に

 実は日本コンテンツ実写化で、中国はいま巨額の収入を見込める最大の市場なのである。19年公開の『アリータ: バトルエンジェル』を見てみよう。製作費1億7000万ドルとされる中で、北米興収は8500万ドル。製作費が巨額だけにこれも期待外れと思いきや、世界興収では4億ドルを超えた。大ヒットである。その秘密は中国にある。中国興収は北米をはるかに上回る1億3000万ドルなのだ。

 5月に公開されたばかりの『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』も同様だ。こちらも北米興行は1億ドルで物足らないとされたが、中国興行は1億3000万ドルを越える。

 長年、日本のアニメマンガやそのキャラクターに馴染んできた中国は、米国以上に日本コンテンツに親近感がある。日本コンテンツを原作にした作品は大ヒットにつながりやすい。もちろん日本こそが日本産コンテンツにとって一番なじみの市場だが、その映画マーケットは世界の5%にも達しない。

 中国の映画市場は18年には北米の113億ドルに迫る約89億ドルと、かなり大きい。ハリウッド映画はこれまで欧米を中心にマーケットを考えてきたが、いまは中国を中心としたアジア市場も計算に入れる必要がある。その時、日本産の原作は「勝てる」作品になるというわけだ。中国で大ヒットした『君の名は。』の実写映画化がいち早く決まったのも記憶に新しいところだ。

●新たなハリウッド実写化の形、「ドラマ

 ハリウッド実写化では別の新しい動きも起きている。それはドラマシリーズである。これまでは実写化と言えば映画だったが、近年はドラマシリーズでの企画も増えている。

 大きな話題を呼んだのは1997年に発表されたテレビアニメシリーズカウボーイビバップ』の実写ドラマ化だ。2019年Netflixオリジナルドラマとして正式発表され、同社の主力作品にラインアップされている。製作スタッフ、出演も決定しており、遠くない時期に配信が始まりそうだ。

 このほか『ワンピース』や『ソードアート・オンライン』といった人気作品の実写ドラマ化が正式に発表されている。ただし両作品は製作の進捗が明らかにされておらず、企画の初期段階とみられる。 

 ドラマシリーズの利点は、映画に比べれば予算が少なくて済むことだ。もちろんドラマでも日本とは桁違いな予算をかけるのが米国流だが、それでも100億円といった金額にはならない。さらにまずは10話とか4話の短いシーズンからスタートし、ヒットすればシーズンを重ねればいい。リスクは限定される。

 極端な大衆受けを狙うこともなく、ある程度コアに向けたジャンルの作品としても成り立つ。Netflixのような配信プラットフォームであれば、視聴者数に合わせて予算もコントロールできる。Netflixではすでにかなりの数の日本製のオリジナルアニメが制作されているが、今後はこれが日本アニメマンガ原作の実写ドラマに広がっても不思議はない。

●欲しいのは「世界的メジャータイトル

 世界で日本コンテンツを取り巻く環境が変わる中で、実写化の際に求められるものも変わっている。かつては『銃夢』『All You Need Is Kill』『獣兵衛忍風帖』(映画化は実現せず)といった、知る人ぞ知る作品がピックアップされることも多かった。そこには日本ならではの世界観、ストーリー、表現を映像化したいというクリエイティブ面での要望が大きかった。

 しかし近年、新たに実写化企画として挙げられるのは、むしろ世界的に知られたアイコンメジャータイトルである。『名探偵ピカチュウ』が公開された『ポケットモンスター』に『NARUTO』や『ハローキティ』『スーパーマリオブラザーズ』『ソニック・ザ・ムービー』『モンスターハンター』……。ゲームタイトルが目立つのは、ゲームは他のコンテンツに較べても大衆へのリーチが大きく、知名度が高いからだろう。それは大衆的とは言えなかった『銃夢』『All You Need Is Kill』と対照的だ。

 かつて日本原作は斬新なアイデアストーリーはあっても、知名度不足が映画化実現の決め手に欠けることも多かった。しかし現在、日本コンテンツに期待されるのはむしろ、世界的な知名度である。その中には先の中国での人気も含まれる。

 では今後も、こうした日本コンテンツへの関心は続くのだろうか。おそらくこの流れは一時的ではなく、しばらく続く可能性がある。よく言われているハリウッドでの映像化コンテンツ不足から、足りない分を海外に求めるという動きもあるだろう。

 しかし、やはり大きな理由として挙げられるのは、10年代以降加速している日本アニメ人気である。これまで実写化企画にあがってきたタイトルは、90年代以降、2000年代初めまでの日本アニメブームの際に盛り上がった物が多い。『攻殻機動隊』『カウボーイビバップ』『ポケットモンスター』といった作品だ。

 しかし日本アニメの米国での人気は00年代半ばにいったん落ち着きを見せ、現在は12年以降に始まった新たな波の中にある。現在の人気が、00年代初めの波に匹敵する次世代のムーブメントになるかもしれない。

●「単なる権利の売り渡し」ではダメ

 もちろん課題はある。1つは海外実写化を日本側がどう生かすかという点だ。単なる権利の売り渡しに終われば、利益は限られる。日本の原作者の意に沿わない作品が制作されたこともこれまでにはあった。

 今回挙げなかった、日本発で世界的なビッグヒットとなったコンテンツの1つに『トランスフォーマー』がある。しかし、タカラの開発した元の玩具をベースにした映像作品としての 『トランスフォーマー』の権利は米国側にある。

 『パワーレンジャー』も同様かもしれない。東映の戦隊シリーズが源流にある2017年劇場版パワーレンジャー』における東映の役割は、極めて限定されている。戦隊シリーズとのつながりから、パワーレンジャーの玩具はグローバルマーケットでも長年バンダイが中心となっていたが、18年に作品の権利がバンダイライバルのハズブロに移動した。グローバルの玩具展開はバンダイの手から離れる。

ハリウッドと渡り合える新アイデア

 そして、日本の人気作品が出し尽くされることもあるかもしれない。 『君の名は。』だけでなく、『僕のヒーローアカデミア』『進撃の巨人』のような最新作の実写映画化が既に言及されている。日本の有力コンテンツは思ったより早く出し切られてしまうかもしれない。主要なタイトルが無くなれば、人気を理由に日本コンテンツに目をつけたハリウッドもその時点で関心を失い、次に続かない。

 日本が目指すべきは、すでにあるメジャーコンテンツだけでなく、新たなアイデアコンセプトをどれだけ売りにできるかだろう。できれば企画段階から映画化に関われる体制があると良い。さらに製作自体に参加し、作品のヒットが日本側の収益拡大につながる形が望ましい。

 このハードルは高いように見える。しかし『名探偵ピカチュウ』では、株式会社ポケモンや東宝が製作に参加している。『カウボーイビバップ』では日本のスタッフも製作メンバーに名を連ねる。ここでも時代は変わってきている。日本アニメ実写化においては、日本側は強力なコンテンツを持った上で、どれだけ良い条件でハリウッドと取引できるかが問われる段階に突入しているのだ。

●著者プロフィール

数土直志(すど ただし)

ジャーナリストメキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に映像ビジネスに関する報道・研究を手掛ける。証券会社を経て2004 年に情報サイトアニメアニメ!」を設立。09年にはアニメビジネス情報の「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げ編集長を務める。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。

再アニメ化も決まった『AKIRA』のアートウォール


(出典 news.nicovideo.jp)


<このニュースへのネットの反応>

全員外人で日本人は一人も出てこないんだろうな


悲報とならない様祈っとくよ


スペースコブラがガン無視されている件について詳しく


ハリウッドリメイクはなぁ・・・・せめて銃夢位の出来にはしてほしい


ドラゴンボール・・・


単純にネタが尽きてるんじゃ、と邪推。


原作の知名度だけ借りて中身は改変だらけの別モノなんだから原作ファンに受け入れられるわけないわな。


原作への愛ある物が監督をするなら良いけど、金目当ての原作すら碌すっぽしらない監督が適当に作るから、漫画やアニメの実写版は地雷扱いされて酷評されるんでしょ。


ハリウッドなんて原作*の常習犯なのに誰の「悲願」なんだ?